Masuk村長の家の着くと、既に昨夜の面子が顔を揃えて待っていた。それに村長の横に立つ長鎗の彼女。すらりと立ち姿に腹部の前で手を組んだ姿は、先日列車で出会った彼女を想起させる。
「戻りました」
言うと、村長は椅子から立ち上がった。
「おう騎士殿、お疲れさん。じゃあぼちぼち始めるとするか」
流れから会議だろうか、それとも詰問だろうか。先ほどまでずっと自警団と共にいたため、正直なところこれ以上私に尋問する必要はないように思う。
「私はあまり必要とは思いませんが」
吐き出すような、語尾に力を入れたはっきりとした彼女の喋り方。
「俺もいらねぇと思うぜ。だがラヴァーグがうるさいからな」
からからと言う。冗談のつもりだろう。しかし、副村長本人の目は冷たく鈍く魚のよう。窘める意味だとは思うが、どうやらあまり自分への冗談を聞き流すタイプではないらしい。
「私としては、これ以上騎士様を疑うのは得策とは思えません」
手は横に、まるで兵のような気をつけで。
村長の家の着くと、既に昨夜の面子が顔を揃えて待っていた。それに村長の横に立つ長鎗の彼女。すらりと立ち姿に腹部の前で手を組んだ姿は、先日列車で出会った彼女を想起させる。「戻りました」 言うと、村長は椅子から立ち上がった。「おう騎士殿、お疲れさん。じゃあぼちぼち始めるとするか」 流れから会議だろうか、それとも詰問だろうか。先ほどまでずっと自警団と共にいたため、正直なところこれ以上私に尋問する必要はないように思う。「私はあまり必要とは思いませんが」 吐き出すような、語尾に力を入れたはっきりとした彼女の喋り方。「俺もいらねぇと思うぜ。だがラヴァーグがうるさいからな」 からからと言う。冗談のつもりだろう。しかし、副村長本人の目は冷たく鈍く魚のよう。窘める意味だとは思うが、どうやらあまり自分への冗談を聞き流すタイプではないらしい。「私としては、これ以上騎士様を疑うのは得策とは思えません」 手は横に、まるで兵のような気をつけで。 私としてもその心当たりがない以上同意なのだが、悪事などいくらでもでっち上げられる。例えば物を盗んだ場合。例えば暴力を加えた場合。相手が複数人のであるならはいくらでも押し付けられる。そして、それは覆る可能性は少ない。 副村長の目は、白髪を貶す兵士達と同じように感じる。「どうだろうね、確証を得られないんじゃね」 狡そうな目を光らせてろくろを回す。「それについてですが。……申し訳ないのですが、ロラさんの家に置いてある荷物を調べさせて頂きました」 言って、ちらりと刺すような私への視線。 別に変った物は入っていない。それに、そもそも荷物を調べられることには慣れている。そのため、特に荷物を探られたことに対して思うことはなかった。 私は長鎗の彼女の視線に対し、頷くことで答える。「怪しい物は特に何もありませんでした。大量の着替えと保存食くらいでしょうか。それに…何かを拭くための布、恐らく武器かと」 間違いはない。
「はい、その通りです」「これはブリジットさんが製造してくれたものです。詳しくは彼女に聞くのがよろしいかと」 なるほど。持ち主が説明してくれるほうが手っ取り早いとも思うが、間違いではない。たしかに、製造主が一番、創造物のことを知っているはずだ。鍛冶屋には用があるため、そのときに詳しく聞くのがいいだろう。見せびらかされた物を欲しがる幼児のようだが、しかしあれが何なのか知りたいのは否定出来ない。巨蜴の魔獣を一撃で追い払ったのは、事実なのだから。あれが魔獣を退かせる方法になるのなら、騎士としては今後とても効率的だ。 そういえば、彼女のもとへはいつ行けばいいのか。優先は出来ないと言っていたことから、恐らく他の製造もあるのだろう。そもそも剣とはどれくらいの期間で一つ出来上がるのか私には分からない。出来上がった際には声を掛けに来るのだろうか。 いや、ロラとのやり取りを見るにあまりそのようには見えない。鍛冶場にて立て掛けてあった武器達を思い出す。武器は完成したから、あとはそっちから来い。思い返せば、武器達がそう言っていた気もする。そう考えると、やはり日を空けてこちらから出向くのが手っ取り早いか。 ……決めると、そこで思考を終えた。長鎗の彼女が念のため周囲を見回ると言ったためだ。本来なら自分がやるべきなのだろうが、しかし私は監視下にある状態である。先ほどの巨蜴や、未知の何かに襲撃される可能性もあるだろう。強い武具を持とうとも、彼女自身の力量がどの程度なのか、私は知らない。ただそこは、彼女自身の力量で何とかしてもらうしかない。 長鎗の彼女は私に一瞥をくれた後、そうしてその場を離れた。その視線には「お前は黙って門番の役目をこなせ」と言わんばかりの含みが込められているように感じる。 余計なことを考えず粛々と。 それだけを私に求めている。 その通り、だが、別に私はこの村の指揮下に入ったわけではない。私の任はあくまでカルム村の守護であり、村の一員になれという命令ではなかったはず。 ただ現状どうだろう。 ここに来て、そして双剣の彼女の試験を受けてから、私は誰かからの指示のもと行動している。別に不満があるわけではない。命令を受けて
視線の先にいたのは、果たして巨大なトカゲであった。大きさは先日の狼と同程度と言っても間違えではないだろう。全身を青黒い鱗に包み、下顎からは突出した牙がそびえ立つ。鋭い剛爪を携えた前足から放たれる一撃は、容易に人の命を奪えるだろう。ひと目見ただけで分かる、村の脅威となる存在。今まで気配を感じなかったことや姿の凶悪さから、魔獣に位置する存在と言って差し支えないはずだ。 恐らくは野盗とは関係のない、この近辺に生息する魔獣。野盗の中に魔獣を操れる魔法使いがいるなら話は違うが、だとするならもっと前に襲われているはずだ。徘徊性の魔獣なのかもしれない。火のような巨蜴の魔獣の瞳は、奥様を刺し抜くほど睨めつけている。確かに、もし魔獣が捕食を目的としているなら、この中で一番抵抗力のない者は奥様だ。「奥様、村の中へお願いします」 勧告すると、身を返して去って行く。すぐさま反応して離脱出来る一般市民はなかなかいるものではない。が、巨蜴の魔獣はそれにすぐさま反応して地を這うようにして追いかける素振りを見せた。対して、即座に地面へ向けて大剣を叩きつけることで進路方向を遮る。 巨蜴の魔獣は脚を止め、今にも切れそうな目つきで私を睨みつけた。「シメオン様、この村はこんなにも毎日のように脅威に脅かされているのですか」 問うと、杖術の彼はその質問を払いのけるように頭を振って否定した。恐らくは本当だろう。もし本当に普段から外敵の脅威に襲われているのなら、そもそもヤグラが出来てからでいい、なんて流暢なことを言っている場合ではないのだ。 巨狼に半蛇、それに野盗と目の前の巨蜴。なんて、タイミングの悪いときに着任してしまったのだろう。 ただ、脅威は常にやってくる可能性がある。現にいまは、目の前の巨蜴の魔獣に対処しなければならない。捕食の邪魔をした私を腹立たし気に見ていた魔獣が、その躰を完全にこちらへ向ける。どうやら標的を私へと変更したらしい。そのままその頑強な爪による一撃を、私目掛けて振り下ろす。揮われた爪撃は、しかし大剣を盾にするようにして防ぐ。 途端、鼓膜を襲う金属的な音。それはその一撃が、この鉄塊に相当する威力であることを示している。しかしその間に、杖術の彼は既に動
交代の者は昼を告げる、歌うたいの声と共に現れた。記憶の中を掻き探すが、やって来た彼は初見である。赤茶の波打つ豊かな髪を、項のところでまとめているその者。内側から肉を削り取られたように凹んだ頬に、何か遠くの物を見つめているような、少しぼんやりとした目つき。手には装飾の施された杖が握られていることから、恐らくは杖術を用いるのだろうと推測出来る。魔法使いとも取れるが、ロラや風使いの彼女を見るにどうやら魔法に杖は必要ないらしい。 杖術の彼は姿勢が悪く、獣みたく背中を丸めていた。「お初にお目にかかります。騎士のエメ・アヴィアージュと申します」 あまり言葉を交わしたくないのか、頭を軽く下げ、それきりだ。どちらにせよ、何も言ってくれないのは不便である。 そう思っていると、彼はおもむろに杖で何かを地面に刻み始めた。杖を走らせるごとに鳴る、がりがりという音。地面の固さから、もし持ち手が木製であったら刻むのは難しいだろう。そうして地面に書かれたのは、果たして「シメオン」という文字であった。親指を立てて自分を指し示していることから、恐らくは自分の名前だ。「シメオン、様」 確認するように、言う。対して彼は一度だけ点頭し、今刻んだばかりの自分の名前を足で消した。そしてヤグラの骨組みに体を投げつけるように腰かける。 それきり、杖術の彼は沈黙してしまった。 改めて彼を見てみると、茶色い外套で覆い隠してはいるがその身はだいぶ痩せ細っている。その身で杖を揮うとなると、威力には些か疑問が浮かぶ。 兵士時代のことを思い出すに、杖術を用いる者に会うのは稀だ。私も訓練の際に教官が使用しているのを見たことがあるだけで、実際の戦争で対面したことはない。その気になれば出来るのだろうが、杖術は人を殺すことに向いているわけではない。殺さずに制圧することには長けていそうだが、戦場でそれが必要になる場面は記憶にあるかぎりなかった。 杖術の彼も、そういったつもりでいるだろう。一人でも捕らえることが出来れば、尋問なり何なりして根城の場所を吐かせる。不殺を意識しているということはそういうことだ。略奪が目的なのか、或いはただの偵察なのかは分からないが、村に脅威を与えている以上、例え命のや
空は雲でいちように覆われていた。雨でも降るのだろうか。その重苦しい曇りに、なんとなくうっすらとだけ光が入ってくるボロ小屋にいる気持ちになった。 窮屈な視線が注がれるのを嫌でも感じる。自警団の者とすれ違うたび、その眼差しには冷たいものが宿っていると分かった。ただ朝の挨拶をした際、返してくれる者とそうでない者とがいる辺り、恐らくは自警団でも考えが二分化しているのだろう。 私に対する感情を。 村長と副村長がその例だ。 不安要素として早く結論を出した副村長、それに対しあくまで穏便に様子を見る村長。自警団でも、その二つの意見が主立っているのだ。村人たちは睥睨の眼で私を見てはこなかった。どうやら村人たちには私が間者の疑いがあることを未だ言っていないようだった。恐らく混乱を避けるために。だが、明らかに自警団が警戒しているのだ、野盗の説明をしないわけにはいかないだろう。現に何人かの村人は、挨拶の返事こそ返してくれたものの、その眼はどこか疑わし気な瞳だった。それはそうだろう、野盗が現れた場合、対処すべきは私なのだから。 その眼は正しい。自警団は昨夜から警戒しているなか、私はこうして一夜明けてから動き出している。村長たちから言われたから、なんて理由は村人には関係のないことだ。あまり印象は良くないだろう。責務を全うしていないのだ。そしてその印象を覆すには、結果で示すしかない。 ……何も深く考える必要はない。ただ職務を為せばいいだけだ。 ほどなくして、村の入口に立てられたヤグラが見えた。あまり高いようには見えない。精々、村の入り口に建つアーチと同程度だ。村の周囲を警戒するのを目的としたものなので、別に間違ってはいない。「やあ、来たね」 どこからか声がした。 それは明らかに、双剣の彼女の声だった。「おはようございます」 ヤグラの上から彼女が顔を覗かせる。ただ完成したとは聞いていないため、恐らくは彼女が勝手に使っているのだろう。一見完成しているように見えるが、そう伝えてこないということは何かしら事情があるはずだ。彼女にそれは伝わっているのかは分からないが、ともかく今の段階で私がそれを使用す
ただ予感がして、目が覚めた。 他人の力で目覚めることなど、憂鬱の塊でしかない。少なくとも、私はそう思う。今まで何度かその機会を経験したが、自分は起きているのにお前は眠り呆けている、という優位性を振りかざしてくる。そして私を嘲ることで気を良くしていくのだ。 眠らせてくれないのもまた、起こす者だというのに。状況からして無視するわけにもいかないのがまた煩わしい。 今回先に目を覚ましたのも、つまりはそんな気配を感じ取ったからだった。 眠っていた部屋の扉が開いたと同時、初めからそういった仕掛けだったように刎ね起きる。「おはようございます。……ああ、既に目覚めていますね。流石ですね騎士様」「おはようございます、リーデ様」 そこに現れたのは、果たして長鎗の彼女であった。夜警から戻り、その足でかは定かではないが、ともかく私を起こしにやって来た。夜通し立っていたであろう彼女の相貌からは、特に疲労した様子を窺えない。なので、恐らくは夜警に慣れているのだろう。普段から夜警に立ち慣れているのか、それともこういった警戒態勢はよくあるのかは分からないが、つまりはそういうことだ。「そろそろ交代の頃合いです。なので、準備をお願いします」「今はどなたが守っておられるのでしょうか」「セシルさんですね」 双剣の彼女だ。 今までの印象では、あまり真剣に守備をしているイメージはないが、警戒態勢では違うのだろうか。どのみち、私は任をこなせればいい。 誰かが運んでくれたのか、寝床の隣にいつの間にか昨日身に着けていた装備が置かれていた。物音がしたら勝手に起きるものだと自分では思っていたが、どうやらそうでもないらしい。 ただ、今まで着込んでいた肌着がなく、代わりに少し洒落た肌服がある。鎧を装着するのに煩わしさはなさそうだが、服が突然別の物は変えられていることに違和感を覚えた。それとも、カルムでは肌着を贈ることが習慣なのだろうか。「すみません、今まで着ていた肌着があったと思うのですが」「ああ、あの使い古された。だいぶボロボロでしたので、差し出がましいとは思うのですが新しい物







